[0013][山行記録] 五竜岳・遠見尾根の定時は16時15分!          平成08年度 ガチャピン (2003/08/05)


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五竜岳・遠見尾根の定時は16時15分!

2003年のある日、梅雨明けした北アルプスの空が非常に気持ちいい。種池キャンプ地を早朝に出発して爺ヶ岳の麓で日の出を迎えた。後ろを振り返ると剣岳、立山に多く残った残雪が朝焼けに映えていた。そして再び前を向いて歩き出すと、鹿島槍ヶ岳の双耳峰が目に入る。そのスケールの大きさに感動し、登頂への意欲が一層増した。

この日は北アルプスに入って7日目、計画では鹿島槍・五竜岳経由で五竜山荘まで行ってキャンプを張り、次の日に遠見尾根を下山する予定だった。しかし、食料が減ってザックが軽くなっていたことや、好天に恵まれて気分が軽かったこと、よく整備された登山道に助けられて足が軽かったこと、そして何よりも風呂に入って美味しいものを…と企み、もし五竜山荘に3時までに到着できればその日のうちに下山してしまおうと考えついた。

さて、気持ちが下山モードに切り替わってしまい僕の足はさらに軽くなった。鹿島槍の登りでは、空荷の登山者とデッドヒートを繰り返した。常に先行される苦しい展開だったが、相手方が布引山で休憩している隙に抜き去った。大人気ないと思いつつも、勝者の味を味わった。そして快調なペースはそのまま続いた。鹿島槍の最高峰である南峰に到達したが、僕はザックをおろさずに北峰に向かうことにした。そして北峰手前の分岐点に着くと、ザックを降ろして駆け足で登った。爽快な空の下、軽快に登れた鹿島槍の登頂は随分気持ちのいいものに感じた。そして本当にこの日は疲れを知らない日となりつつあった。

キレットに着いたのは午前10時前であった。早めに昼ご飯を…と思ってキレット小屋でビスケットを食べていると、机の前に座っていたおじさんからみかん缶のお裾分けを頂いた。僕が「おいしー、おいしー」と連呼すると、その親切なおじさんは「家で食っても、ちっとも美味しくないのにな」と言ったので素直に納得してしまった。

快調なペースは続き、五竜岳山頂に着いたのは午後1時半頃だった。途中、鎖場が数箇所あって混雑すると渋滞することもあるそうだが、運良く抜けることができたようだ。「下山して風呂入って美味しいものを…」という企みの現実味がググッと増した。この時点でも疲れは微塵もなかった。下山後への期待が疲れを吹き飛ばしているようだった。

山頂から五竜山荘まで降りて、おやつを食べながら下山コースの確認を行った。市販の地図によれば、五竜山荘からゴンドラ乗り場までのコースタイムは3時間40分程度とのことである。早足で降りれば2時間30分くらいで降りられるはず…なんて甘い妄想が絶え間なく心の底から湧いていた。

五竜山荘を14時30分に出発した。そしてしばらく歩くと、遠見尾根から登ってきた人から「今から降りるん?間に合わんのと違うんか?」という声が掛かった。最初はその言われた事の意味がわからなかった。確かに今から降りるのは時間的に遅いかもしれないけど、日が落ちるまでには十分な時間があると思ったから「まぁ、大丈夫でしょう。夕方までには降りれますよ。」と切り替えした。すると「ゴンドラの運転時間は4時15分までって書いてあったけど大丈夫なんか」と間を置かずに切り返された。この瞬間に、今日一日の快調お気楽モードが吹き飛んだ。そして頭の中に「残り時間:1時間45分」と自動的にタイマーがセットされていた。

とりあえず走れるような道では走るようにした。登り坂ではさすがに走ることができず歩いて呼吸を整えることで精一杯だった。途中、何人もの人とすれ違ったが、こちらの切羽詰まった様子に気付きパッと道を空けてくれた。一人でメロスになった気分で走った。しかしその心にあったのは「風呂と美味しい食べ物」であってメロスのような崇高なものではなかった。また走りながら、ワンゲル時代、新人練成合宿で県民の森から油木駅まで走る行事を思い出した。息が切れて苦しかったけれども、懐かしい想い出に心が少し和んだ気がした。

「残り時間:15分」となったころ、ゴンドラ駅まで35分と書かれた標識が出てきた。そして、下の方にはそれらしき建物を確認することができた。「間に合う!」と直感的な確信を得た。しかし逆に、急に足がだるくなったのを感じた。また、走るとザックが背中にドンドンッと当たって後ろから心臓マッサージを受けているような感じを受けて、息が苦しくなった。「間に合う」「苦しい」というそれぞれの思いが合致し、走るのをやめてしまった。

しばらく歩くと先程確認した建物がゴンドラ駅でなくてリフト乗降場であることが判明した。再び心の中が真っ白になった。「残り時間:10分」。ハリウッド映画によくある時限爆弾シーンと今の自分とをダブらせて、心臓が高鳴るような気がした。ザックによる心臓マッサージも手伝って人生最高の高鳴りかもしれない。そして自然と足が走り出した。

ゴンドラ駅が見えた時、「残り時間:5分」であった。今度はゴンドラが動いているのを確認できた。また、数人の観光客がゴンドラ駅に向かって歩いている所も確認できた。「なんとか間に合った」と今度こそ本当だぞと自分に言い聞かせながら歩くことにした。ゴンドラ駅に着いたのは、16時20分。5分の遅刻でも間に合った…。「こんなときでもワンゲル時間かよ」って独り言。

以上、もう遠見尾根はコリゴリだと思った苦い想い出である。

この後、白馬駅まで電車で移動した。八方温泉みみずくの湯で入浴して、駅前のふきのとうという食事屋でジャンボカツ定食(生ビール付)を食べた。おいしかった。そして遠見尾根で一人走っている自分の姿を思い浮かべて、なんだか愉快な気分になった。





※ワンゲル時間とは?:僕がワンゲル時代の頃、集合時間と言うものがあった。もちろん集合時間に人が揃うことなく時間を過ぎてだらだらと集まる傾向にあった。つまり、集合時間から数分程度、遅れることをワンゲル時間と呼んでいた。











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